ヴェネツィア・スクラップブック

「フォルトゥニーとワーグナー ~イタリアのヴィジュアルアートにおけるワーグナー主義~」展


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(写真:パラッツォ・フォルトゥニーオフィシャルサイトより拝借)

2013年がワーグナー生誕200年ということで、先日フェニーチェ歌劇場のオペラ開幕公演でもヴェルディ作「オテッロ」と並んでワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」が上演されたばかりだけれど、ここフォルトゥニー美術館(芸術家マリアーノ・フォルトゥニーの生前の邸宅&アトリエが美術館となっている)でも12月8日から、ワーグナーをテーマにした企画展が始まり、150を超える数の作品が展示されている。

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1800年代末から1900年代初めの数十年間にイタリアのヴィジュアルアートに大きな影響を与えたといわれる、ドイツの偉大な音楽家であり作曲家であるワーグナーとその「ワーグナー主義」、このテーマを扱ったイベントは今まで例が無いのだそう。

この「ワーグナー主義」というもの、文学・音楽・絵画等の幅広い表現分野において文化的流行をみたらしく、特にヴィジュアルアートの分野では、19~20世紀を通じ後期自然主義や象徴主義、リバティ様式などと共に美学上最もティピカルな表現運動のひとつだったが、その中心人物が、このマリアーノ・フォルトゥニーだった。

ワーグナーは1813年5月22日ライプツィヒ生まれで、1883年2月13日ヴェネツィアで没。一方マリアーノ・フォルトゥニーは1871年5月11日スペインのグラナダ生まれ、1949年5月2日ヴェネツィアで没。
マリアーノ・フォルトゥニーが永住の地となるヴェネツィアに移り住んだのは1889年(1874~88年、父の没後家族と共にローマからパリへ移り、その後ヴェネツィアへ移った)だから、ワーグナーの没後、ということになる。しかし彼はパリ時代にワーグナーの作品に接し、1892年には現在も音楽祭で有名なドイツのバイロイトへ足を運んでおり、ここで既に完成していたバイロイト祝祭劇場(ワーグナーが自身のオペラ上演のために企画設計した)を見たらしい。
既にパリでタレントを花開かせていたフォルトゥニーだが、ワーグナーの作品に魅せられた後のヴェネツィアでの彼のマルチぶりは・・・更にグレードアップ。
そんな彼の作品達が、ここに、彼の邸宅兼アトリエに、彼が暮らし、動き、作品を考え出したその場所に、展示されている。

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(写真:パラッツォ・フォルトゥニーオフィシャルサイトより拝借)

ワーグナーオペラのシーンの絵やスケッチ、バイロイト劇場やテアトロ・デッレ・フェステの模型(どちらも今回の企画展のためにヴェニス・インターナショナル・ファンデーションにより復元された)、ミラノスカラ座での「トリスタンとイゾルデ」舞台装置模型、照明や各種装置、雲を映写する為の装置のスケッチやガラス、なんていうものまで・・・エトセトラ、エトセトラ・・・。
中には、フォルトゥニー自身が室内でなにやら棒のようなものを肩に担いで、オペラのワンシーンのモデルになっているかの様な写真まであった(1895年頃のもの)。まるで「他人に任せておけないから自分でモデルになっちゃった」という感じで写っているフォルトゥニー(←勝手な想像ですが)。
そしてもちろん、彼自身がデザインした舞台衣装も展示されている。

フォルトゥニーの、この熱中ぶり・・・が、こちらにも伝わってくる感じだ。
「ワーグナー主義」なのかもしれないが、見ているうちにこちらが「フォルトゥニー、こんなことにまで手を出しちゃって・・・まあ・・・」と、なんだかヤンチャな子供の猪突猛進っぷりを眺めている様な(フォルトゥニーさん失礼)気分になってきて、楽しい。
個人的に、ここの美術館は企画展も常設展も大好きなのだけれど、今回の企画展でもフォルトゥニーのマルチっぷりは躍動していて、それがたっぷり味わえる。
サスガ、企画展のタイトルに「フォルトゥニーとワーグナー」と2人の名前が並べられているのも頷ける。

作品のドラマ、美術、建築空間、歌と踊り、そして詩、その全てが総合的に一体となって共通の目標へ向かい作用していくこと。その実現のために、デザイナーと技術者が共に仕事をしていくこと。マテリアルそのものとそれを構築していくプロセスに関する確かな知識を持つことこそが、作品のクオリティをより良いものにしていく道であること。
ワーグナーの作品を通じてフォルトゥニーはこうした新たなビジョンを得て、新しいタイプの劇場デザインを実現していったのだった。
今までの展覧会ではいつも、フォルトゥニーのマルチっぷりを単純に「すごいすごい」と見ていたけれど、そのマルチぶりを支える彼の思考は、こういうところにあったのかもしれない、と思いながら、興味深く見た。

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(写真:Quotidiano Netより拝借)

「ワーグナー主義」と副題にあるように、もちろんフォルトゥニーだけの作品だけではなく、今回の展示は1800年代末から現在に至るまで、ワーグナーにインスピレーションを受けた芸術家の作品もたくさん見ることができる。
現代のアーティストでは、アンゼルム・キーファーやアントニ・タピエス、ビル・ヴィオラ、ジョアン・ブロッサなど。
ここの美術館は、いつもその展示構成のセンスにうーんと唸ってしまうのだけれど、今回も、例えばブロッサの現代版のユニークなワーグナーの肖像画(?)が、1800年代終わりの、いわゆる正統派の肖像画に並べて展示してあったり、照明を暗くした展示室の中で巨大なAdolfo Wildt作の「パルシファル」の彫像が浮かび上がっていたりと、「ただ並べてある」だけではないのが、また楽しい。

他にはワーグナーを扱った雑誌やカリカチュア、1900年代前半のミラノスカラ座の公演ポスター等など、ワーグナーオペラ好きな方が見たら喜びそうなものも色々展示されている。
ベートーベンとワーグナー、2人のデスマスクも、並んで展示されていた。


最後に、ひとつ。
最上階(3階)展示室に、写真家Ditta Naya(1858-83年)撮影の写真が、「ヴェネツィアでのワグネリアン・イティネラリー」というタイトルで映像展示されているのだが、ワーグナーが滞在していた1800年代後半のヴェネツィアの風景が見られて、これがなかなか興味深く、思わず見入ってしまった。
人のまばらなヴェネツィアの街。まだ鉄製のアッカデミア橋。サンマルコの鐘楼は、まだ倒壊する前のものだ。変わったものと変わらないもの・・・。
そして・・・ワーグナーがその生涯を終えた場所、現在はカジノになっているヴェンドラミン・カレルジ。
ここの大運河沿いの壁面には、現在は彼の横顔のレリーフと共に「ここでリヒャルト・ワーグナーが生涯を終えた」と彫られた銘板があり、水上バスからも眺めることができるのだけれど、これが、まだ無い・・・。
まったくもって当然のことなのだけれど、ワーグナーの辿ったヴェネツィアのその風景の中で、彼はその壁面に将来自分がここで死んだことを表記した銘板が掲げられると、想像できただろうか・・・。
不思議な気持ちで、会場を後にしたのでした。

「フォルトゥニーとワーグナー ~イタリアのヴィジュアルアートにおけるワーグナー主義~」展
会場:パラッツォ・フォルトゥニー
2013年4月8日まで
開館時間:10~18時(チケット売場~17時)、毎週火曜日、12月25日・1月1日休館
キュレーター:Paolo Bolpagni
会場構成:Daniela Ferretti

Fortuny e Wagner
Il wagnerismo nelle arti visive in Italia
Palazzo Fortuny, San Marco 3780 – San Beneto, Venezia
8 dicembre 2012 – 8 aprile 2013
Orario: 10.00 – 18.00 (biglietteria 10.00 – 17.00); chiuso il martedì, 25 dicembre e 1 gennaio
A cura di Paolo Bolpagni, con l’allestimento di Daniela Ferretti

◆イタリア政府観光局(ENIT)の記事はこちら
◆パラッツォ・フォルトゥニーのオフィシャルサイトはこちら

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by sumiciki | 2012-12-17 10:16 | 美術

ヴェネツィア在住。雑記帳ブログ。
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