ヴェネツィア・スクラップブック

トーマス・ヒルシュホルン

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終わってから既に2ヶ月以上が経ってしまった・・・(ブログに採り上げるのがあまりに遅くてすみません)。
ヴェネツィアでは、昨年11月下旬までコンテンポラリー・アートのビエンナーレ(Biennale)が開かれていた(ご存知の方も多いと思うがbiennaleとは「2年毎の」という意で、毎年アートと建築の展覧が交互に行われる)。

私は(これまたご存知の方も多いと思うが)、物忘れが激しい。
ビエンナーレも終わって2ヶ月も経つと、長い期間をかけて準備してこられた開催者側の方々には甚だ申し訳ないのだけれど、かなりの部分は忘れてしまっている。
けれど、その段階でなお自分の中に強烈に残っているものがあれば、それはありがたいビエンナーレの収穫だと思っている。

今回のビエンナーレで私の中に強烈に残っている唯一といってもいい展示は、スイス館のトーマス・ヒルシュホルン(Thomas Hirschhorn)のインスタレーションだった。
タイトルは、「CRYSTAL OF RESISTANCE」。

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パビリオンの建物内全てを使いまくってのインスタレーション展示。
入った時まず目に入ってきたのは、たくさんの・・・綿棒。携帯電話。ガムテープが巻き付けられている。週刊誌。タイヤ。ジュースの空き缶。ペットボトル。エトセトラ。どれも、日常生活の中で使われ消費され、そして廃棄されるものばかり、彼は使っている。
しかし、入った時に目に入ってきた綿棒も携帯電話も、中に進んで彼のインスタレーションの世界に入っていくと、それらが「綿棒」でも「使い古しの携帯電話」でもなくなるのが自分でも分かる。
そこにあるのは「綿棒」でも「携帯電話」でも「消費財」でも「廃棄物」でもなく・・・彼のインスタレーション世界の、他には替えられない構成要素なのだった。そのひとつひとつが表現のエレメントに見事に変えられているのだった。こんな圧倒されるような「綿棒」を、私は今まで見たことがなかった。

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そして少し奥に入った所に見たのは・・・膨大なカラーコピーだった。
・・・目を覆いたくなるような、そして新聞でもテレビでも見たことがないような、凄惨な暴力を写した写真のカラーコピー。
路上で血まみれになって死んでいる男性。処刑されたらしい首吊り死体。お腹を引き裂かれ胎児が露出した状態で殺されている妊婦。家らしき所で共に銃殺されたらしい家族・・・。
数々の凄惨な写真のカラーコピーには、日付も撮影場所も、国や人物、事件についても、何も明記されていない。だから余計に報道写真としてではないものとしてそれらを見ている自分に気付く。
それらも彼のインスタレーション世界の構成要素だった。

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それらの写真と日用品・廃棄物のオブジェの渦巻くような世界だった。

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インスタレーションとは、ある意味説明が難しい。
言葉で「日用品を使ったインスタレーション」とひとことで言ってしまうと、このパビリオンで感じたあの「ビリビリ感」は全く伝わらない。一応ここにも載せているけれど、写真でも伝わらないだろう。
また、他の人が同じエレメントを使ってインスタレーションを行ったとしても、ヒルシュホルンの世界は、100%、できない。
インスタレーションは、空間が作品そのものだから、やっぱり、そこに行かなくてはダメなのだなあと思う。

彼の世界に足を踏み入れた人達は、そこから何を感じて出て来たろうか。
強烈な余韻を残す、スイス・パビリオンだった。
これを見られただけでも、今年のビエンナーレは私にとって収穫だった。

アートのビエンナーレも、全く門外漢の私でさえ、マーケット色が濃いとか、パビリオン形式の展示方法が今の時代にどうなのかというような話を読んだり聞いたりもする。
が、美術関係者でも批評家でも記者でもない私は、今年もそうだったように、自分が考えたこともないようなことをぶつけてくれる作品、そんな思いもかけない作品と会えたらおもしろいなあという興味で、来年もまた足を運ぶだろう。

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by sumiciki | 2012-02-06 06:08 | 美術

ヴェネツィア在住。雑記帳ブログ。
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