「暖炉」の効用
先日、イタリアはマルケ州にいる友人の実家に電話を入れた。
4月に入ってからも雨が続いていて寒い日もあり、友人のお母さん曰く、4月なのに暖炉に火を入れたのだそう。
山の方は、まだかなり寒いらしい。
3月にここを訪ねた時にも、この家ではまだまだ暖炉が目一杯、働いていた。
東京生まれ東京育ちの私にとって、暖炉というものは縁遠いものだったし、今の日本でも「暖炉のある家」は珍しい方だと思うけれど、こちらイタリアには最近建てられた家でも結構この「暖炉」がお目見えする。
山の方の寒い地域の家、しかもイタリアの家は天井が高く広い。部屋数も多いし、それぞれの部屋が広い。また、機密性の高いアルミサッシでない家もある。
そんな所では、エアコンのような、つまり室内の空気全体を暖めるような暖房器具よりも、局所的に「暖炉の周りだけ」暖める、という方法が、実に有効であることに気付く。
暖炉のある部屋しか暖まらない、もっと正確に言うと広い部屋でも暖炉の周りのスペースしか暖かくないから、自然と家族はそこに集う。家に顔を出しに来る親戚や近所の人達も、かつて知ったる、という感じですぐにその周りに腰を下ろしていく。
そこで、火を囲みつつ、そして火を絶やさないように時々暖炉をいじりつつ、おしゃべりが、会話が続いていく。
暖炉は、自然に人がそこに集まってくる、という装置、「自動人寄せ装置」(我ながら下手なネーミングだが)みたいになっているのだった。
私は経験がないけれど、日本の家にかつて備わっていた囲炉裏、それもこんな感じだったのだろうか、と思う。
囲炉裏の周りで火を囲みながら、家族や近所の人達と、暖を取りながら話に興じていたのだろうか。
それ以外にも暖炉は、「ゴミ焼却炉」としても大活躍だ。
見ていると皆、例えばキャンディーの包み紙とか果物の皮や種などを、ポーンポンと暖炉の火の中に放り込んでいく。ちょっとした生ゴミや紙ゴミ(リサイクルするほどでないもの)は、各家庭で処分できてしまう、というわけ。
他にも生ゴミや食べ残し等は、畑の肥料や家畜の飼料となるから、そんなわけでこの辺の家から出るゴミ(特に生ゴミや燃えるゴミ)は、えらく少ないのだ。
一度暖炉に火を入れると、火が消えないように常に気を配る。
私の他に誰もいなくなる時には、「sumicikiさん、暖炉の火、よろしくね」と頼まれる。
そんな時は、暖炉脇で読書などしながらも、時々新しい薪を火にくべたり、うまく火が移るように薪の位置を移動したり、灰を横に掻き集めたり、「火を絶やさないこと」を意識する。
維持とメンテナンスには、それなりの労力が必要、だろう。
薪は常に調達しておかなければならない。
ここの家では、薪を買って届けてもらうやり方。
その薪を割るのは、お父さんの役目。
そして暖炉の「煙突掃除」、これもお父さんの役目だ。
以前に一度だけ、お父さんが暖炉の煙突掃除をしているのに遭遇したことがある。
そこにいたのは、普段の貫録あるお父さんというよりはむしろ・・・・・・チムチムチェリーだった。
小さい頃によく聴いていたあの歌、「チムチムニー・・・チムチムチェリー、私は煙突掃除屋さ~ん」の彼である。(今でもこの歌、流れているのだろうか?私の記憶では、『おかあさんといっしょ』だったか『みんなのうた』でよく聴いていたのだが。)
その歌の中に、「足の先か~ら頭~まで~、煤をかぶってまっ黒~け~」というフレーズがあったのだが、初めてナマで見た。本当に足の先から頭まで、煤をかぶってまっ黒けの人(改めて読み直すと、歌詞そのまんまである)。
このメンテナンス・フリーが謳われるご時世に、暖炉のメンテナンスってなんとまあ大変なのだ、と、このまっ黒けな人を前につくづく感じ、また小さい頃に聴いた「チムチムチェリー」がこの時初めて映像としてリアルにイメージされたのだった。
面倒なことは諸々あるだろう。
しかし、手入れが楽なものばかりを追っていると、きっと上に書いたような暖炉の効用は失われていくだろう。
「火」というものの存在と、「暖炉」というひとつの暖房器具の効用に、しきりと感心したのでした。
by sumiciki
| 2012-04-16 23:39
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