ボルツァーノを歩きながら
南チロル、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の街ボルツァーノの街を歩く。
街を歩きながら感じたこと。
「ここは・・・イタリアのドイツ語圏、ではなくて、まるでオーストリアの中のイタリア語圏みたいだ」。
街の標識はイタリア語とドイツ語併記、本屋に入ればドイツ語の本が店頭にずらっと並び、パン屋を覗けば私の住むヴェネツィアとは全然違うパン(そしてそれがまた美味しそうなのだが)、プレッツェルや黒パンが並ぶ。
耳に入ってくる地元の人のおしゃべりは、ドイツ語の方が断然多かった。
それに、お店でも、屋台でも、ホテルでも、イタリア語よりも英語でコミュニケーションを取ることの方が多かった。
ヴェネツィアを含め、ここの州以外のイタリアの街では、例えば私が少しでもイタリア語を話せば大抵は英語を話していてもイタリア語に切り替える。
逆に言えば、ここボルツァーノの「イタリア人」にとっては、私とイタリア語でコミュニケートするよりも英語の方が手っ取り早かったのだ。
日本から直接この街に観光で入った人にはそれほど異質に感じられないかもしれないが、イタリアに住んでいる私にとっては、なんだか外国(つまりイタリアではない国)を旅行しているみたいな印象だった。
それで、冒頭に書いたような感想、があったのだった。
そして、これこそがまさに、現在のボルツァーノ、そしてトレンティーノ・アルト・アディジェ州の特殊性といえるのだと思う。
今年はイタリア統一150周年にあたり(といいつつ、今年もあと1カ月もないけれど・・・)、日本でも記念イベントが色々と開催されていると聞くが、1861年にイタリア王国が成立した時にはまだこの地方はイタリアではなかったのだ。
ちなみに私の暮らすヴェネツィアがイタリアに組み込まれたのは1866年、ローマは1870年で、そしてこの地方がイタリアとなったのは、1919年、第一次世界大戦後である(その前はオーストリア領だった)。
ファシズム期には強制的なイタリア同化政策が行われたという。ドイツ語使用の禁止、イタリア語での教育、イタリアからの移住の推奨によるイタリア人比率の増加・・・。それらは彼等の反感を高めた。
第二次世界大戦中の大ドイツ帝国やオーストラリアの領地争いの混乱を経験後、大戦後には自治を認められたものの、その後も完全自治、あるいはオーストリア帰属を求める運動がテロをも伴って行われたのだそうだ(1950年代、60年代には激化)。今、この穏やかに見える山間の静かな街からは、少なくとも通りすがりの私の眼には、そのような物騒な歴史は想像できないけれど。
それから、自治権は拡大され、ドイツ語も公用語として認可されたのだそうだけれど、現在でもイタリアの中の自治州という位置付けに対し、色々な動きは(かつてのようにテロという形は取らなくとも)あるのだと思う。
ふと思い出したのは、今年の春、イタリア統一150周年の記念式典を前に、その出席の是非について色々論議があったというニュースを思い出した。
この地方にしてみれば、「イタリア150周年といっても、そこには我々は含まれていないじゃないか」という理にもなるわけで、「イタリア統一」の歴史の複雑さを感じずにはいられない。そしてそれぞれの地方が国家であった長い歴史の後の、「イタリア」の短さも。
若いボルツァーノっ子達には戦争やテロの記憶はもちろん無い訳だけれど、
彼等がイタリア国内を旅行した時には、例えば電車で数時間行くだけの、同じ北イタリアのミラノやヴェネツィアの街を訪れた時に、自分達の暮らす街とは全く別のイタリアの街を見る訳で、そしてそれが彼等には当然のこととなっている筈だ。
そして日常生活の中ではドイツ語とイタリア語、2つの言語が当然のように使われている環境。
歴史の名残はこのように、ここの空気の中にしっかりと残っている。
そんなことを考えながら、そして時々おいしいウインナーとパンを頬張りながら、街をぶらぶら歩いた。
by sumiciki
| 2011-12-11 19:46
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