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ヴェネツィア・スクラップブック

空港で出会った人


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少し前の話。

時々仕事でヴェネツィアのマルコ・ポーロ空港に行くことがある。その日も昼に空港で仕事を終え、ヴェネツィア行き(空港はイタリア本土側にあり、ヴェネツィアの島に戻るため)のバスを空港前で待っていた。
・・・けれど、全然来ない。待っても待っても来ない。
おかしい・・・と疑い始めた頃、それを察したらしい同じベンチに腰掛けていた40代位のイタリア人の男性が、
「今日はね、公共バスのショーペロ(ストライキ)だよ。朝と夕方は(通勤の人の為に)一時的に運行するけど、それまでは1本も来ないと思うよ。」と話しかけてきて教えてくれた。

イタリアで全国的に行われる24時間ストライキなどは事前にテレビのニュース等でも報じられるのだけれど、ローカルなストライキは、前もってあまり周知しない。バス停に小さな張り紙がしてあったりはするのだけれど、それも見落としてしまいがち。
ストライキは金曜日に行われることが多いのだけれど、最近は金曜日以外にも行われることが増えていて、その日もまさにそれに当たってしまったのだった。

そんなきっかけで、そのままベンチで座りながらその男性とのおしゃべりが始まったのだった。
ヴェネツィア生活の中で、こんな感じで見知らぬ人とおしゃべりするのはよくあること。ただ、いつものおしゃべりとちょっと違ったのは、(そしてそれは話し始めて3分もしないで分かったのだが)、その男性が実はホームレスだった、ということ。

彼は、「ボクはここの空港のカフェで働いているんだよ」という様な感じで、「ボクはホームレス生活を送っているんだよ」と自己紹介?した。「え、そうなの!?」と私。

彼から言われなければ分からないほど、彼は所謂ホームレスらしくない格好をしていた。
私はそれまで先入観と偏見で、ホームレス=服装が汚れていて臭う、というイメージを持っていたし(失礼)、それは家が無ければ服も着っぱなし、入浴ができなければ身体も服も汚れるだろうという私なりの理由もあった。
ところが彼の洋服はそれなりに清潔な普段着で、頭にはサングラスまで引っ掛けていて、気になる様な臭いもなく、それこそさっきまで空港のカフェかどこかで働いて来た帰りのような格好をしていたのでした。
服装だけではなくて雰囲気も、どう見てもおしゃべり好きなイタリア人のお兄さん、といった感じ。
私がそのことを言うと、彼は色々と話してくれた。ヴェネツィアやその近郊には、シャワーが使え洗濯もできる施設があること、他にも食事を配給してくれる施設があること、等など。

そして彼は、仕事を持っている人が毎日仕事に通うように、空港に行き(空港にはヴェネツィアを離れる多くの旅行者がバス等交通機関のまだ有効なチケットを捨てていくし、また旅行者が使用したカートのコインなどが入手できる。)、利用時間内にシャワーや洗濯をする為にヴェネツィアや近郊の施設に移動し、食事の配給を受ける為にまた別の施設に移動する。そうやって日々を規則的にスケジューリングしているのだった。洋服など衣類は、教会のチャリティーバザーが定期的に開かれていて(平日の数時間だけだそうだが)、そこで低価で入手できるんだよ、とのこと。

「ここで待っていても今日はストライキだからチケットが手に入らないでしょ?」と訊いた私に、彼は「他の場所には他の仲間がいて、それぞれの持ち場があるし、そこを侵したくはないんだ」との答え。空港の敷地内にも彼等なりの担当部署(?)があるのだろう。

彼との話の中で私が感じたのは、彼はホームレスだけれども、盗む事と物乞いをする事をせずに生活を組み立てている人なのだ、ということだった。
そして、5ユーロ・10ユーロにも事欠く生活の中で、そのような姿勢を保ち続けるのは大変なことだろうとも思った。

話の中で彼がパスケースの中から出して私に見せて見せてくれたものがある。「カリタス」の会員証だった。
国際カリタスとは、もともとは1800年代後半にドイツで活動が始まったそうだが、第二次大戦で活動が停止、1951年にカトリックの組織として正式に歩み始め、カトリック教会の社会福祉機構として成長、現在最大級の国際NGOとして活動を行っている組織だ。
イタリアはその設立時からのメンバーになっていて、また日本にもカリタス・ジャパンとして存在している。

ホームレスの彼はその会員証の交付を受け、その利用者として食事の配給、施設の利用ができるのだそうだ。そしてそのような形で食事と入浴などをサポートされることで、彼は生活をキープしているのだった。

「これだけきちんと日々生活しているのだから、仕事を見つけて働くことは可能では?そうすれば、ホームレスの生活では無くなるでしょ?」という私の言葉に対し、彼は、そこに壁があって、難しいんだ、と答えてきた。
万が一仕事を見つけられたとしても、そうすることで配給や施設の利用はできなくなるのかもしれないし、また施設は平日の日中が利用時間となっているものも多い。家賃の問題(ヴェネツィアの家賃は高い)など、仕事を見つけたとしても生活がうまく回っていくかどうか、ということもあるだろう。

話の中で印象に残った言葉があった。「家を持つ人達の多くは、ホームレスを見ても、見て見ぬふりをする。見なかったことにするんだ」という一言。
貧しい人を見ても見ぬふりをする他人の無関心や無視に、彼は日々直面しているのだろう。そして私もその一人。
しかし逆に手を差し伸べてくれる人の温かさも多いよ、と彼は言っていた。

立っている事もできなくなったホームレスの仲間を何度も病院に運んだこと。付き添った搬送先の病院では他の市民から文句が出ること(税金を払っていない彼らが病院を利用するのは何事か、ということか)、夜の寝床にしている駅を見回るガードマンの中には、見て見ぬふりをしてくれる人もいること、ホームレスだけではなく駅や空港を見回る警備員は多くが知り合いなんだよ、ということ・・・色々話した。

ホームレスでも、彼の様に規則的な(?)生活を送っている人がいて、その状態を克服する事は至難の事かもしれない。が、それをカリタス等のカトリック教会の福祉活動が支えている、という状況を目の当たりにした感があった。

結局バスのストライキのおかげで、気付くと1時間近くも彼と話をしていた。
そして彼は最後まで私に少しの金銭も乞わなかった。「キミとおしゃべりできて楽しかったよ、ありがとね」と、握手して別れた。これには少し感動した。
その後、幾度か空港で彼を見かけ、その度にお互い挨拶を交わしている。



by sumiciki | 2011-08-04 22:33 | 日々の生活で

ヴェネツィア在住。雑記帳ブログ。
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