ヴェネツィア・スクラップブック

移民

日本に暮らしていた時には遠かった、そして今は身近に感じるようになった単語がある。「移民」だ。

ちなみに「広辞苑」によると、
移民:他郷に移り住むこと。特に、労働に従事する目的で海外に移住すること。また、その人。
日本では「プチ整形」などと言うらしいから、私は「プチ移民」かもしれない。

自分とその周囲に「移民」を強く感じる機会、それはイタリアの滞在許可申請手続きを行うために、クエストューラ(県警察本部)に赴く時。
ここクエストューラに集まるのは、滞在許可を得る必要のある国の外国人達。アジア人はもちろん、一部東欧やアフリカ、そしてアメリカ人もここでの手続きが必要。
つまり、イタリアにいながらここばかりは外国人だらけ、イタリア人は署員と申請の同伴者が少しだけしかいない、というなんとも特殊な状況が出来上がっている。

特殊な状況、というだけでは伝わりにくいかもしれない。外の街とは、そこに漂う雰囲気があまりに違う。
ヴェネツィアの街で毎日の様に見かける、イタリア人同士の楽しく賑やかな世間話、とは隔絶された空間。生活のベースを合法的に確保するために必死な光を目に宿した外国人だけがいる空間。

滞在許可がもらえなければ、合法的にはイタリアにいることができない、つまり合法的には仕事もできないし学校にも通えない、つまり何もできない(あくまでも合法的に、だが)訳で、合法的に住み続ける為にはこの手続きはなんとしてでもパスしなくてはいけない関門なのだ。しかも手続きは混乱しがち。来ている人達の目の奥に、「なんとか許可をもらわねば」という必死な気持ちが宿るのも当然だろう。

ここに来る度に感じるのは、「観光目的と住むことを目的とする(あくまで一般人の)のだと、国の態度はずいぶんと違うものだ」ということ。
観光でこの国を訪れる人は、大なり小なりの差はあれお金を落として去っていくが、生活目的でこの国に入国し住み続けようとする一般人は、国としては、お金を落とさないばかりかイタリア国民の仕事も奪うだろうし、犯罪も起こしかねない。とにかく、「ようこそイタリアへの滞在を決めてくださいました、ウェルカムウェルカム!!」という態度は、当然ながらここでは全く見られない。
私ももちろん、その審査対象の一人として扱われることになる。

冬の朝、整理券を受け取った後にも屋外で番号を呼ばれるまで1時間以上待たされる。さすがに寒いが、これでも数年前にシステムが変わり、煩雑で混乱を極めた手続きがだいぶ楽になった感がある。
ここのクエストューラの雰囲気も私が初めて訪れた頃に比べ大分良くなった気がする。
その時には朝の行列にはピリピリした空気が流れ、東欧の人らしい初老の女性が署員に「出ていけ!」と衆前で大声で怒鳴られているのも見たし、来たばかりの日本人の男性留学生から、「窓口の担当者に『イタリア語が話せないなら帰れ』と言われた」という話を聞いたこともある。私自身も、署員に並ぶ列を確認してから並んだのに指示された所が実際は違う列で、後で説明しても「もう整理券配布は終わったから帰るように」と追い払われるように帰されたこともある(冬の朝屋外で2時間以上待った後で!)が、こんなのは可愛い方だろう。とにかく署員と申請手続きを待つ人達の間でまず張りつめた雰囲気があり、また申請者同士もピリピリしているから近くで度々言い争っているのを耳にもした。
今回寒い屋外で待ちながら、「イタリアに暮らし続けるイタリア人には、ここで手続きを待つ人の気持ちは想像しにくいだろうなあ」と考える。
同様に日本の入国管理局では、滞在手続きを待つ外国人が今頃、「日本に暮らす日本人には、私達の苦労など知るまい」、と思っているのかもしれない。

やっと屋内に入るが、自分の順番はまだまだ。
アジア系では今回は中国人ばかりが圧倒的に目についた。大抵は家族や仲間とグループで来ている。アフリカ系の人も何人か、一緒に来ているような人達がいる。私はまずは留学目的で一人で来た訳だが、彼らは正に「家族ぐるみで働くためにイタリアに来た」人達だろう。同じ滞在許可手続きでも、私とは環境が大きく違う人達。
先に手続きが無事に終わったらしい一人が、まだ順番を待っている仲間に、「がんばれよ」という感じで挨拶して出て行く。

現代の日本人からすると、「収入目的でイタリアに行って働く」という考えは、よほど例外的な職でない限り珍しいだろう。料理や音楽、職人仕事の分野など、要するに日本ではできないことをイタリアに求めて働きに来る人はいても、ここに収入を求めて来る人は、相当少ない筈だ。
一方彼等は、まさに「母国を出てイタリアで収入を得る為に移り住んでいる」人達。彼等の母国での収入や就業率はイタリア以上に悪いという人達も多いだろう。彼らの目の奥の光がどこか必死であるのも当然かもしれない。

そして更にイタリアには、ここでの申請手続きを行わない不法入国・滞在者が数多といるわけで、またそれはいつか別の機会に断片的に書かせていただくことになるかも。ここで必死で合法的に手続きを踏む人達は、まだ「まとも」かもしれない。

屋外・屋内で3時間以上待ち、ようやく手にした滞在許可証。期限を見るとあと4カ月しかない。また手続きしなくては・・・。
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by sumiciki | 2011-01-28 12:21 | 日々の生活で

ヴェネツィア在住。雑記帳ブログ。
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